[シリーズ第一弾]小規模事業者持続化補助金における【賃上げ】について

1. はじめに

中小企業庁が実施する各種補助金において、従業員の賃金引上げが必須要件や加点要件として取り扱われることがあります。経産省・中小企業庁は積極的な賃上げを推進していますので、補助金活用を検討する中小企業に対しても政策に沿った事業計画の策定を促す狙いです。

これらの賃上げ要件は、補助金の中核となる投資内容や事業計画のストーリーと比べると本筋以外の部分にあたり、それにもかかわらず複雑で煩雑な部分なので、事業主の皆様も正しく理解して、要件未達となってしまわないよう気を配るのが大変ではないかと思います。どれだけ素晴らしい事業計画でも、賃上げの取り扱いを見落として思わぬところで足元をすくわれてしまい、交付取り消しや補助金の返還などの問題が生じてしまう可能性があります。

本記事から続くシリーズでは、こうした賃上げに関する様々な補助金での取り扱い、要件を詳細に検証し、読者に情報を提供していきます。第一弾となる今回は、小規模事業者持続化補助金について取り上げます。
※2024年2月現在の情報です。制度の変遷がある可能性がありますので、情報の新旧に十分ご注意ください。


本題に入る前に、そもそも賃金引上げにまつわる『従業員』とは誰のことを指すのでしょうか?
従業員の定義について不安がある方は、別の記事で詳しく解説していますので、まずはこちらをご一読いただき、定義を明確にしてから本記事をお読みいただくことをお勧めします。
記事【『従業員』とそうでない人の定義】


2. 小規模事業者持続化補助金

2-1. 概説

小規模事業者持続化補助金は、その名の通り小規模事業者限定で申請でき、販路拡大のための様々な投資に対して活用可能な補助金です。


まず、小規模事業者って?となった方はこちらの記事をご一読下さい。
記事【中小企業・小規模事業者とは?】


さて、本補助金において賃金引上げが関係してくるのは二点あり、①『賃金引上げ枠』に申請する場合と、②その他の申請枠で『賃上げ加点』の適用を受ける場合です。


上表の通り、本補助金においては申請時点での事業場内最低賃金を基軸として、補助金採択後、補助事業終了時点までにおいて一定の賃上げをおこなうことで、特別枠の一つである『賃金引上げ枠』を利用できたり、それ以外の枠の採択審査での加点を受けることが可能です。

事業場内最低賃金とは、補助事業に取り組む事業所において(会社単位で申請する補助金なので、実務上は「会社において」と解釈して問題ないかと思います)、最も低賃金で働いている方の時給換算額のことを指します。時給で働いている方が居る場合は、その中で一番低い時給となります。日給や月給の方しか居ない場合は、その額を所定労働時間で割って算出した時給単価の中で、一番額が低い方の時給単価となります。以下に具体例を示します。

  • 時給の方…時給1,300円=1,300円
  • 日給の方…日給10,000円で、1日の所定労働時間が8時間の場合→10,000円÷8=1,250円
  • 月給の方…月給221,000円で、1ヶ月の所定労働時間が170時間の場合→221,000円÷170=1,300円
    →この3名のみの会社の場合、日給の方の1,250円が事業場内最低賃金となります。

申請時点とは、補助金を申請する日の時点において、一番最近の給料日ベースとなります。

また、これらをどういったエビデンスをもとに補助金事務局側が評価するのかというと、申請前1か月分(再直近分)の事業所全体の賃金台帳と、そこに記載されている従業員全員の労働条件通知書、就業規則/賃金規定など、時給単価を算出する根拠となる所定労働時間がわかる資料を提出する決まりとなっています。


2-2. 『賃金引上げ枠』に申請する場合

『賃金引上げ枠』は本補助金の特別枠の一つであり、『通常枠』が補助金上限額50万円であるため、200万円の補助金額を狙うために『賃金引上げ枠』での申請を選択される方も多いのではないでしょうか。
かくいうステラ社労士法人でも、顧問先様へ提案する際は従業員がいる会社様が大半ですので、キャリアアップ助成金等と組み合わせた賃上げ計画を立てることで本補助金の受給額を最大化できるようプランを練ることが多いです。

この『賃金引上げ枠』での賃上げの取り扱いは2パターンあります。

  • パターン1:申請時点での事業場内最低賃金が『地域別最低賃金+50円』未満の場合
    地域別最低賃金+50円とは、例えば東京都(1,113円)であれば1,163円、北海道(960円)であれば1,010円といった具合です。東京都の会社で、前述の方法で算出した事業場内最低賃金が1,163円未満の場合、『賃金引上げ枠』を活用するためには、補助金交付決定後、補助事業終了までの間に、1,163円未満の全ての従業員の時給単価を1,163円以上に引き上げる必要があります。

    • パターン1具体例
      東京都。従業員5名。それぞれ申請時の時給単価が以下の通りだったとします。
      Aさん…1,113円
      Bさん…1,113円
      Cさん…1,150円
      Dさん…1,200円
      Eさん…1,500円
      この場合、補助事業終了までの間に、すべての従業員を1,163円以上の水準に引き上げる必要がありますので、以下の通りの賃上げを実施することになります。
      Aさん…1,113円→1,163円となるように時給単価50円賃上げ
      Bさん…1,113円→1,163円となるように時給単価50円賃上げ
      Cさん…1,150円→1,163円となるように時給単価13円賃上げ
      Dさん…1,200円→賃上げ不要
      Eさん…1,500円→賃上げ不要
  • パターン2:申請時点での事業場内最低賃金が『地域別最低賃金+50円』以上の場合
    上記の東京の例で、申請時点においてすべての従業員がもともと1,163円以上の時給単価で働いていた場合がパターン2となります。この場合、『地域別最低賃金+50円』以上に引き上げるという目標が既に達成されています。このケースで『賃金引上げ枠』を活用するためには、補助金交付決定後、補助事業終了までの間に、事業場内最低賃金を、『従来の事業場内最低賃金+50円』以上に引き上げる必要があります。

    • パターン2具体例
      東京都。従業員5名。それぞれ申請時の時給単価が以下の通りだったとします。
      Aさん…1,250円
      Bさん…1,250円
      Cさん…1,280円
      Dさん…1,300円
      Eさん…1,500円
      この場合、事業場内最低賃金が1,250円なので、補助事業終了までの間に、すべての従業員を+50円水準=1,300円以上に引き上げる必要がありますので、以下の通りの賃上げを実施することになります。
      Aさん…1,250円→1,300円となるように時給単価50円賃上げ
      Bさん…1,250円→1,300円となるように時給単価50円賃上げ
      Cさん…1,280円→1,300円となるように時給単価20円賃上げ
      Dさん…1,300円→賃上げ不要
      Eさん…1,500円→賃上げ不要

2-3. 『賃金引上げ枠』以外のコースで『賃上げ加点』の適用を受ける場合

前述の『賃金引上げ枠』以外のコースに申請する場合でも、所定の賃上げを実施することを表明すれば、採択審査において【加点】を受けることができます。採択審査における加点とは、100点満点で審査される補助金を、120点満点で勝負できるようなものですので、狙える加点条件は可能な限り満たすようにしたほうが良いものです。なお、『賃金引上げ枠』に申請する場合は自動的に『賃上げ加点』も適用されます。
『賃上げ加点』の内容は、前述の『賃金引上げ枠』の内容をそのままに、『+50円水準』のところを『+30円水準』としたものです。申請時点での事業場内最低を基軸として、補助事業終了までの間に以下のように賃上げを実施します。

  • パターン1:申請時点での事業場内最低賃金が『地域別最低賃金+30円』未満の場合
    前に倣い東京都の会社を例にとると、事業場内最低賃金が、『地域別最低賃金+30円』である1,143円未満の場合、補助金交付決定後、補助事業終了までの間に、1,143円未満の全ての従業員の時給単価を1,143円以上に引き上げる必要があります。
  • パターン2:申請時点での事業場内最低賃金が『地域別最低賃金+30円』以上の場合
    同様に、申請時点においてすべての従業員がもともと1,143円以上の時給単価で働いていた場合は、補助金交付決定後、補助事業終了までの間に、事業場内最低賃金を、『従来の事業場内最低賃金+30円』以上に引き上げる必要があります。

2-4.【まとめ】 小規模事業者持続化補助金を活用するうえでの実運用

以上のように、本補助金においては、大まかに言うと「現在の最低時給相当者を、50円ないし30円以上昇給することができるかどうか」で賃上げにまつわるメリットを受けられるか否かが別れてきます。なお、『賃金引上げ枠』や『賃上げ加点』の適用を受けて申請し採択された場合で、補助事業終了後の実績報告時に所定の賃上げを実施していると認められなかった場合は、交付取り消しとなり、投資した費用が丸ごと持ち出しとなってしまう可能性がありますので、実績報告時のエビデンス提出に関しては十分に注意し、公募要領通りの運用を徹底しましょう。

以上を踏まえて、実際の申請を考えるうえでのポイントは以下のようになるかと思われます。

    • 同じ事業場内最低賃金で働いている従業員が多ければ多いほど、賃上げしなければならない人数も増える。
    • 対象人数と昇給単価、対象者の平均労働時間等を踏まえ、実際の負担額を試算し、活用に足るかどうかを検討するとよい。
    • 50円昇給の場合、月給者であれば労働時間が平均170時間/月として1名あたり8,500円ほどの人件費増となる。
    • 30円昇給の場合、月給者であれば労働時間が平均170時間/月として1名あたり5,100円ほどの人件費増となる。
    • 『通常枠』の補助金上限額50万円と、『賃金引上げ枠』の200万円とでは4倍もの差があるため、その他の特別枠の申請要件を満たさないのであれば積極的に『賃金引上げ枠』の申請を検討すべきである。
    • その他の特別枠で申請する場合は、30円の賃上げが可能であれば、採択確率を上げるためにも積極的に『賃上げ加点』の適用を検討すべきである。

小規模事業者持続化補助金は、スタートアップ企業から成長企業まで、小規模事業者の要件さえ満たせば非常に使い勝手の良い補助金であり、まさに補助金の入門編ともいえる制度です。賃上げによる従業員満足度の向上もあわせて、適切な運用で事業加速の大きな助けとして活用したいものですね。

ステラ社労士法人では着手金なし、完全成果報酬型で小規模事業者持続化補助金の申請サポートをしております。お気軽にお問い合わせください。
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